近年の司法修習において最初のプログラムとなっているのが、司法研修所に司法修習生たちが一堂に会して行われる「導入修習」です。講義や演習、起案など、今後の司法修習や二回試験に向けた、学習の土台となるカリキュラムが詰め込まれており、短い日程ながら重要なプログラムといえます。長かった受験生活も終わり、今後1年間の司法修習に期待と不安を抱く皆さんにとって、導入修習はもっとも気になる話題ではないでしょうか。
本記事では、修習生となる皆さんが事前に把握しておくべき導入修習の流れや、修習のなかで特に重要なカリキュラム等について解説していきます。
※本記事は、72期の導入修習におけるカリキュラムに基づくものであり、今後は司法研修所や各教官室の方針、新型コロナウイルス感染拡大の影響などによって、内容が変更となる可能性があります。あらかじめご了承ください。
アディーレ二回試験対策講座主任講師 プロフィール
弁護士 山内 涼太
所属部署:労働事件部(部長)
アディーレ二回試験対策講座主任講師
弁護士。学生時代から、裁判劇の制作や、中高生に対する法学出前授業などの法教育活動に携わる。アディーレ入所後は、主に労働事件を手がける傍ら、二回試験対策講座を担当。「普通の努力で、普通の人にも、普通より良い成績を」を目標に、平易で効率的な試験対策学習を研究中。
導入修習の流れ
例年、導入修習は、約3週間(実日数としては15日間)の日程で実施されています。日程の過密さもさることながら、ほとんど書き方を教わらないまま丸1日起案を課されたり、クラスにも慣れないうちにグループワークを与えられたりと、司法試験後の安堵感から気が緩んでしまった修習生たちへ、「勉強しなきゃ…」という危機感を抱かせる“洗礼的”なカリキュラムもあり、心身ともなかなかにハードな期間といえます。
近年の導入修習では、最初の2日間で”導入の導入“ともいえる講義(起案の初歩的な考え方や事前課題の解説など)を受けたあと、3〜5日目頃には、早くも各科目初めての起案が課されます。そのあとは、起案の解説やグループワーク型の授業が民事系科目・刑事系科目で約4日ずつ行われ、最後の2日間は「各実務修習への臨み方」といったガイダンス的講義を受けて、いよいよ修習生は各実務修習地へ飛び立つこととなるのです。
どのカリキュラムも、実務修習や集合修習、二回試験、さらには、その先の実務に向けた基礎固めとして非常に有益ですし、クラスメイトとの交流の機会としても重要なものではありますが、以下では、これらのなかでも特に注意すべきカリキュラムとその対策等について、類型別に解説していきます。
類型別重要カリキュラム解説
(1)起案系
導入修習では、民事裁判(民裁)、刑事裁判(刑裁)、検察、民事弁護(民弁)、刑事弁護(刑弁)の5科目とも、半日(約3時間)で起案を書き上げる「ハーフ起案」が課されます。集合修習などで課される起案よりは分量が少なく、成績やコメントシートもつかないことが多いため(各教官によって異なるようです)、気負いすぎず、「書けなくても仕方ない」くらいの気持ちで臨むのがよいのではないでしょうか。ご存知のとおり、修習は裁判官・検察官の選考過程でもあります。各修習生の能力そのものというよりは、志望度(先輩修習生などを通じて、修習で学ぶべき内容を自発的に予習しているか)を測る機会として、導入起案への取り組み方がチェックされていることは、想像に難くありません。任官・任検を少しでも考えている方ならクラス平均レベル、まったく志望していない方でも、今後の修習生活のため、せめて教官に目をつけられない程度には頑張りましょう。
また、その後の解説講義も、各科目の基礎的な起案ルールを学ぶ機会として重要です。特に、民裁・刑裁・検察の3科目は、実務修習中にも起案が課されるため、「自分は何を理解できていないのか」をまず理解することを最低限の目標に受講しましょう。そのうえで、理解できなかった点を授業後に教官へ質問するなどして疑問を解消しておけば、第1クールに向けた起案対策としては十分だと思います。
(2)“導入の導入”系
導入修習の開始式直後、最初の2日間で行われるカリキュラムです。各教官のスタイルにもよりますが、教官の自己紹介を交えつつ、白表紙とともに配布されていた事前課題などを題材に講義を行い、導入起案への取り組み方を概説する、という流れが一般的ではないでしょうか。もっとも、この概説だけで、起案における考え方や書き方を理解するのは無理な話です。
そして、教官と修習生の“顔合わせイベント”でもあり、基本的には和やかに授業が進められていくものの、注意すべきなのが刑弁の「導入講義」です。刑弁では、模擬接見の設例が事前課題として課されているかと思いますが、この講義では、修習生数名が指名され、会って間もないクラスメイト約70名の前で、模擬接見を実演することになります。修習生の大半は、実際の接見など見たこともなく、また、まさか自分が教官から指名されるとは想定していないはずです。その結果、どのクラスも、指名された修習生が被疑者役の教官に翻弄され、実務の厳しさを見せつけられる、という展開になることが多かったようです。その“洗礼的”なインパクトや緊張感から、導入修習のなかで、もっとも記憶に残っている先輩法曹も多いのではないでしょうか。私も、当時どの修習生が教官に指名され、どのような模擬接見を実演したか、鮮明に覚えています。万が一指名されても、緊張することなく実演できるよう、『刑事弁護講義ノート』や『刑事弁護の手引き』を片手に、しっかりと事前課題に取り組んでおきましょう。
(3)その他講義系
導入起案のあとは、起案の解説講義のほか、事前課題、グループワークなどを通じて、実務修習前に知っておくべき知識を身につけます。事件発生後の各段階で、捜査機関が収集すべき証拠をグループで検討する「捜査演習(検察)」、原告・被告に分かれて訴訟の見通し等を検討する「民事総合(民裁・民弁共催)」など、どの授業も各教官室が練り上げた題材が用いられ、興味深い内容となっています。
特に注意すべきは、民弁の講義です。導入修習では、民事執行や民事保全、和解条項など、民事弁護実務で不可欠な知識について、教官室作成のレジュメを用いた講義が行われます。そして、導入修習の半年以上先、集合修習や二回試験の民弁起案においても、これらの知識が小問として問われるのです。一見すると、小問だけでも膨大な出題範囲のように思えますが、実はここ数年、これらの小問で問われた条文や用語は、ほぼすべてが導入修習時のレジュメに記載されていたと判明しています。集合修習や二回試験の民弁起案対策を進めるうえで、導入修習時のレジュメはきわめて重要ですから、絶対に失くさず、熟読するようにしてください。
また、教官にもよりますが、多くの講義ではロースクールと同様、「ソクラテスメソッド」を交えて解説が進められます。顔合わせして間もない、約70人のクラスメイトのなかで、悪目立ちした第一印象を持たれることのないよう、そして、短い日程のなかで少しでも理解を深められるよう、事前課題を含め最低限の予習は心がけましょう。
(4)実務修習ガイダンス系
導入修習終盤では、修習の内容を振り返りつつ、実務修習で行うべき学習や心構えなどについて、各教官が解説するカリキュラムが組まれています。民裁・刑裁修習においては、傍聴などのほか、実際の事件記録を読んで争点に関する事実認定を行う、起案が主な学習内容となります。各クール中に書くべき起案のノルマについては、アナウンスがあるのでよく聞いておきましょう。また、当該カリキュラムや課外講演として、裁判官・検察官志望者を対象とした、選考に関するガイダンス等が行われる場合もあるため、任官・任検を少しでも考えている方はチェックをお忘れなく。
以上のように、導入修習は多彩かつ内容の濃いカリキュラムが連日詰め込まれています。周囲の修習生に遅れを取ることなく、修習生活のスタートダッシュを成功させるためには、やはり、事前課題への取り組みや白表紙の読み込みなど、導入修習“前”の学習が重要です。合格発表から修習開始までの期間は、就活や引っ越しなどで多忙なこととは思いますが、修習へ向けた学習も怠らないようにしましょう。
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- 全科目共通 事実認定の考え方総論(10分20秒)
- 検察起案の基礎(15分25秒)
- 刑事裁判起案の基礎(13分10秒)
- 民事裁判起案の基礎(15分40秒)
(全4回 54分35秒)