司法試験に合格し司法修習生となる皆さんなら、必ず知っている業界用語が”白表紙(しらびょうし)”。ご存知のとおり、司法修習中に使用する教材のことを指します。

司法修習生の採用内定通知書が届くと間もなく、司法研修所から白表紙と事前課題が送られてきます。事前課題に取り組むには、司法試験に向けて学んだ内容とは大きく異なる考え方や知識が必要であり、白表紙を参照しながらすべての課題をこなすためには、かなりの時間を要します。

司法試験の合格発表後は、人によっては就職活動や入寮準備などに追われる時期です。修習時代を振り返ってみても、山積みの白表紙を前にしながら手探りで事前課題をやっつけ、不安を抱えたまま修習生活へ突入したという修習生が、私を含め多かったように思います。いずれの白表紙も、修習や実務のどこかで必ず役立つ内容とはいえ、限られた期間の中でなるべく効率的に学習を進め、安心して修習を迎えたいのが修習生の本音でしょう。

そのような修習生の皆さんの思いに応えるべく、ここでは、事前課題および導入修習、さらにはその後の修習起案・二回試験に臨むという観点から特に重要となる白表紙を、72期の修習内容に基づく優先度別にランク付けしてご紹介いたします。

アディーレ二回試験対策講座主任講師 プロフィール

弁護士 山内 涼太

Ryota Yamauchi

所属部署:労働事件部(部長)
アディーレ二回試験対策講座主任講師

弁護士。学生時代から、裁判劇の制作や、中高生に対する法学出前授業などの法教育活動に携わる。アディーレ入所後は、主に労働事件を手がける傍ら、二回試験対策講座を担当。「普通の努力で、普通の人にも、普通より良い成績を」を目標に、平易で効率的な試験対策学習を研究中。

山内涼太弁護士

(1)A+ランク

  1. 『刑事事実認定ガイド』(刑裁)
    司法試験では法の解釈適用能力が問われていた一方、修習では、これと両輪をなす「事実認定能力」を身につけることが求められます。刑裁、民裁、検察の3科目から出される事前課題も、そのほとんどが基礎的な事実認定を行わせるものです。『刑事事実認定ガイド』は、刑裁における事実認定を主眼とした白表紙ですが、第2章で詳細に解説されている経験則の機能や間接事実からの推認過程といった内容は、全科目に共通する事実認定の基礎的な考え方を含んでいます。刑裁の事前課題を解くうえで不可欠であることはもちろん、すべての白表紙の中で最初に目を通すべき一冊といえるでしょう。
  2. 『検察終局処分の考え方』(検察)
    検察起案では、主に、記録に現れた被疑者がなぜ犯人と認められるのか(犯人性)、その行為にどういった犯罪が成立するのか(犯罪の成否)について、その思考過程を緻密に論述することが求められます。また、検察起案には論じるべき事項、順序などに特有のルールがあり、これを逸脱した“自己流”の起案には容赦なく低評価が与えられます。『検察終局処分の考え方』には、これらの考え方やルールの解説のみならず、具体的な起案例まで掲載されており、薄いページの中に検察起案のエッセンスが凝縮されています。事前課題を含めた検察起案に臨むうえで避けては通れない一冊であり、二回試験直前期に最も多く読み返した白表紙はこれ、という先輩も多いかもしれません。
  3. 『事例で考える民事事実認定』(民裁)
    従来の民裁起案では主に要件事実の知識が問われていましたが、近年では「判断枠組み」や「動かし難い事実」などの概念を用いた事実認定の論述がメインの設問となっています。民事事実認定において必要なこれらの概念・考え方を、裁判官と2名の修習生との対話形式で平易に解説したのが、この白表紙です。刊行後、民裁教官室の見解が若干変化したと思われる点もわずかにありますが、民事系2科目における事実認定の手法を身につけるうえで、大事な足がかりとなる白表紙であることに変わりはないと思います。

(2)Aランク

  1. 『民事弁護の手引』(民弁)
    民弁起案では、訴訟記録に基づき最終準備書面を起案させる設問が最もよく出題されます。『民事弁護の手引』には、最終準備書面や、訴状、答弁書の起案例が掲載されており、司法研修所の民弁起案に臨む際だけでなく、弁護修習中に主張書面の起案を課された際にも参考になります。修習生の間では「民弁起案は“型”がない」という言説をよく耳にしますが、この白表紙を読んだうえで民弁起案の解説講義を受ければ、言説の真偽が分かると思います。
  2. 『刑事弁護講義ノート』(刑弁)
  3. 『刑事弁護の手引き』(刑弁)
    刑弁起案では、公判全体を見据えて起訴段階で作成する「想定弁論」の起案がメインの設問となるほか、証拠収集や尋問事項など、幅広いジャンルの小問が出題されます。『刑事弁護講義ノート』および『刑事弁護の手引き』には、想定弁論を作成するうえで必要な考え方だけでなく、小問対策につながる事項も解説されています。前出の①、②と比較しながら読むことで、刑事系3科目全体の理解も深まります。
    また、刑弁には起案形式の事前課題がないかわりに、模擬接見に関する事前課題が与えられており、導入修習の序盤には、この事前課題に基づき修習生数名が模擬接見を実演するというカリキュラムが組まれています。『刑事弁護の手引き』には模擬接見に臨むうえでのヒントとなる内容も含まれているため、教官から実演者に指名されても焦らずにすむよう、早めに該当箇所を一読することをおすすめします。
  4. 『事実摘示記載例集』(民裁)
    民裁起案の前半では、要件事実の知識を基に主張整理を行う設問が出題されます。要件事実を摘示する際には、一定のルールに従った過不足のない記載が求められますが、この記載方法を覚えるうえで有益なのが、『事実摘示記載例集』です。もっとも、この白表紙はあくまでも記載例が列挙されているものであるため、あらかじめ『新問題研究要件事実』(⑫)や『完全講義 民事裁判実務の基礎』(大島眞一著・民事法研究会)などで要件事実の知識をインプットしておくことが必要です。
  5. 『プロシーディングス刑事裁判』(刑裁)
  6. 『プラクティス刑事裁判』(刑裁)
    刑裁起案では、事実認定大問のほか、保釈や証人尋問など刑事手続に関する小問が頻出となっています。『プロシーディングス刑事裁判』および『プラクティス刑事裁判』では、主に裁判員裁判を念頭にしたこれらの手続を概観することができ、小問対策はもちろん、刑裁修習で公判等を傍聴するうえでも必携の白表紙となっています。

(3)Bランク

  1. 『民事弁護教材 改訂 民事保全』(民弁)
  2. 『民事弁護教材 改訂 民事執行』(民弁)
    民弁の事前課題は、主に民事保全法・民事執行法の知識を要する設問となっており、民弁起案でも、民事保全・執行に関する小問が出題されます。『民事弁護教材 改訂 民事保全』および『民事弁護教材 改訂 民事執行』では、これらに対応するための最低限の事項が簡潔に解説されていますが、一部の修習生の間では「記載が簡潔すぎる」という意見もあるところです。民事保全法・民事執行法の基本書を既に持っているという方は、好みに合わせて使い分けるとよいでしょう。
  3. 『新問題研究要件事実』(民裁)
    要件事実の初歩を解説した白表紙です。導入修習では、このレベルの知識はすでに身に付いているという前提で講義が進むため、ロースクールや予備試験において「要件事実が大の苦手だった」という方は、『新問題研究要件事実』に立ち返って復習するとよいと思います。もっとも、民裁起案で求められるレベルからすれば、これだけでは明らかに準備不足です。民裁修習、集合修習、二回試験を想定し、いずれは前掲『完全講義 民事裁判実務の基礎』などで知識を補いましょう。
  4. 『対話で考える民事事実認定―教材記録―』(民裁)
  5. 『検察導入修習講義 参考事例』(検察)
    民裁、検察の事前課題用に作られた簡易な事例記録であり、事前課題を解くうえでは必須の白表紙です。もっとも、解説用の白表紙とは性格が異なり、導入修習後は読む機会が乏しいと思われるため、Bランクとしています。

上記では紹介していませんが、周りの修習生に差をつけたいという方にとって武器となる白表紙は、他にもいくつかあります。また、近年は一般販売されている書籍にも、修習生の学習を強く意識したものが増えてきていますので、ご自分にあったものをぜひ探してみてください。